ある日、緩和ケア病棟で、長い闘病を終えた患者さんが静かに言いました。
「看護師さん、私、病気と闘っているというより…体を“仲直り”させてるみたいなんです」
その言葉が、私の胸を深く震わせました。――免疫とは、「敵と戦う力」ではなく、「自分の中の調和を取り戻す力」なのかもしれない。
私たちは「免疫力を上げる」ことばかりを求めがちですが、本当に大切なのは免疫を整え、支えること。がんの治療現場、コロナ禍の体験、子どもの発達、そして東洋の漢方や栄養学——それぞれの現場に、免疫を「育てる」ためのヒントが隠されています。
この特集では、医療と生活の両面から、“免疫力をどう理解し、どう支えるか”をやさしく紐解いていきます。
小さな知識が、あなたや大切な人の未来をそっと守る光になりますように。
免疫力を“医学的に見る”ということ
免疫とは、体を守るために24時間働き続ける「生体防御システム」です。
細菌やウイルスといった“外敵”を見分けて排除する一方で、
自分自身の細胞を誤って攻撃しないようにコントロールしています。
このシステムはとても繊細で、
弱まると感染症やがん・慢性炎症のリスクが高まり、
過剰に反応するとアレルギーや自己免疫疾患を引き起こすこともあります。
ですから、よく耳にする「免疫力を上げる」という表現は、
医学的には少し曖昧です。大切なのは“上げる”ことではなく、
バランスを整え、支えること。
その基盤となるのが、栄養・睡眠・運動・心の安定です。
この4つが揃うことで、免疫のチームは静かに、でも確実に力を発揮します。
【がん編】免疫力とがん — 食事・漢方・栄養介入から学ぶ
がんの治療や予防において、今「免疫‐栄養(immunonutrition)」という考え方が注目されています。
それは“がんと闘う力”ではなく、“体を支える力”を整える栄養学です。
研究では、オメガ3脂肪酸・グルタミン・アルギニン・ビタミンA・C・E・亜鉛・セレンなどが、
体内の炎症や「腫瘍微小環境(がん細胞の周囲環境)」に影響を与える可能性が報告されています。
(参考:日本癌治療学会、国立がん研究センター)
ただし、これらは「がんに効く食べ物」ではなく、
治療を支える栄養です。
免疫や回復力を下支えし、治療に耐える“体の地力”を育む――
それが栄養介入や漢方的ケアの本質です。
🍽 実践ヒント:日々の食卓で「守りの栄養」を届ける
- 抗酸化力のある野菜や果物を、毎食ひとつ。
- 発酵食品を取り入れて、腸内環境を整える。
- 体を冷やさず、血を巡らせる温かいスープを。
- 魚・豆・卵などの良質なたんぱく質で“再生の素材”を補う。
これらはどれも、特別な食事ではありません。
「食べること」そのものが、“命の営みを支える治療”になるのです。
🌸 漢方的視点:めぐりを整え、守りを育む
東洋医学では、免疫を「気・血・水」の巡りとして捉えます。
しょうが湯や根菜の煮物は、体を温め、気の流れを促す日常の一杯。
冷えを防ぎ、巡りを良くすることで、免疫の土台が静かに支えられていきます。
🌿「がんと向き合う体に、“守りの栄養”を静かに届ける朝の一皿。」
【コロナ編&ウイルス感染編】“新しい日常”における免疫ケア
COVID-19の流行は、私たちに「免疫の脆さ」と同時に、「支えの大切さ」を教えてくれました。
体を守る力は、薬や特定の栄養素だけでなく、
日々の“暮らし方”によって静かに育まれています。
厚生労働省やWHOの報告では、
ビタミンD・ビタミンC・亜鉛などの微量栄養素が、
免疫応答の維持に関与することが示されています。
(参考:厚生労働省 新型コロナウイルスQ&A、
WHO Nutrition and COVID-19)
けれども、特定の栄養だけでウイルスを防げるわけではありません。
免疫は“全体の調和”によって働くチームのようなもの。
大切なのは、免疫の土台を崩さない暮らしです。
🌤 実践ヒント:日常に取り戻す「整う」時間
- 睡眠: 7時間前後を目安に。就寝前はスマホの光を避け、体を休ませる準備を。
- 食事: 1日3食のリズムを守り、水分をこまめに摂る。
- 運動: 軽い有酸素運動(ウォーキングやストレッチ)で免疫細胞の“巡り”を促す。
- メンタル: 笑顔・会話・呼吸を意識して、「副交感神経」をやさしく活性化。
これらの積み重ねが、体を“戦わせる”のではなく、“支える”方向へ導きます。
感染症に負けない体とは、がんばりすぎない体のこと。
リラックスの中に、最大の免疫力が宿ります。
🌬「ウイルスの波の中で、あなたの“守り礎”をひとつずつ固める。」
【子ども編】免疫力を育てる“成長期の守り”
子どもの免疫系は、まさに“学びの途中”にあります。
生まれてから思春期にかけて、体はさまざまな刺激を受けながら
「何が敵で、何が味方か」を少しずつ覚えていきます。
だからこそ、「清潔にしすぎない」「自然に触れる」「よく遊ぶ」ことが、
免疫の発達に欠かせない時間です。
泥んこになって遊ぶこと、外の風にあたること――
それが体の“免疫の教室”なのです。
🥗 成長期の免疫を支える栄養
発育期には、次の栄養素が特に大切です。
- たんぱく質: 体と免疫細胞の“材料”。魚・豆・卵・肉をバランスよく。
- ビタミンA・C・D・E: 粘膜や抗酸化の働きを支える。カラフルな野菜や果物で。
- 鉄・亜鉛: 成長と免疫応答の鍵。貝類・レバー・大豆製品から。
食卓の“彩り”は、栄養のバランスそのもの。
カラフルな食事は、子どもの免疫力を静かに整えていきます。
🌞 実践ヒント:家庭で育む“免疫の学び”
- 家族で食卓を囲み、「楽しく食べる」ことを優先に。
- 発酵食品や旬の食材を、一緒に調理してみる。
- 外で遊び、自然光を浴びる(ビタミンD合成のためにも)。
- 十分な睡眠と、笑いのある時間を確保する。
免疫は、食事と同じように“感情”でも育ちます。
家族の笑い声やぬくもりが、子どもの体に「安全だよ」というメッセージを伝え、
副交感神経を通して免疫の土台を育ててくれるのです。
🧒「小さな手が、大きな守りを育てる。遊びと栄養が、未来の体を作る。」
【漢方&本編】東洋の知恵と現代の知識がつながるところ
東洋医学では、免疫という言葉を使わずに、
「気・血・水」の調和としてその働きを捉えています。
体を温め、巡らせ、滞りをなくすこと――それが“守りの力”を引き出す鍵です。
たとえば、しょうが・にんにく・長ねぎ・根菜類・味噌や納豆といった発酵食品。
これらは、体を温め血流を促し、腸を整える“食べる養生”です。
興味深いことに、現代栄養学でもこれらの食材は
抗酸化・抗炎症・腸内環境の改善などに関与すると報告されています。
東洋と西洋の知恵が、時代を超えて同じ場所で交わるのです。
🌿 からだを整える“重なる知恵”
- しょうが: 血流を促進し、冷えを防ぐ。
- 根菜類: 体を内側から温め、胃腸を支える。
- 発酵食品: 腸内細菌を整え、免疫の約7割が存在する腸をサポート。
どれも特別な薬ではありません。
日々の食卓に小さな“整える力”を加えるだけで、
体は静かにバランスを取り戻していきます。
📚 心と体をつなぐ、学びの一冊
東洋の知恵をもっとやさしく学びたい方へ、次の書籍もおすすめです。
- 『免疫のしくみ』NHK出版(監修:安保徹)
- 『からだを整える東洋医学の教科書』(主婦の友社)
- 『世界一シンプルで科学的に証明された免疫力アップ法』(サンマーク出版)
漢方は「古いもの」ではなく、「ゆっくり効く科学」。
体の声を聴きながら、現代の知識と重ね合わせていくことで、
免疫の力はより深く、やさしく整っていきます。
🌸「東洋の“めぐり”と西洋の“免疫”が、あなたの守りを二つの光で照らす。」
【まとめ】免疫力は“病気と闘う力”ではなく“病気を支える力”
がん、感染症、成長期、そして東洋医学――。
どの視点から見ても、免疫とは「守る・整える・支える」ための力です。
それは、あなたの体の中で24時間働き続ける“小さなチーム”のような存在。
免疫の世界には、一つの正解はありません。
「上げる」「下げる」ではなく、
“どう支えるか”を選び続けることが、
あなた自身の免疫を育てていく道になります。
毎日の食事、眠る時間、深呼吸、誰かとの笑顔――
それらの積み重ねが、免疫のバランスを整える“静かな力”です。
今日、ほんの少しだけ自分の体を思いやること。
それが10年後、あなたや大切な人を静かに守ってくれるはずです。
🌿「あなたの中に、小さな守りのチームが育っていきますように。」
🧠 よくある質問(FAQ)
📝Q1. がん治療中に「免疫力を上げる食事」をすると、治療効果が上がる?
栄養状態が整っていることは、治療の耐容性や免疫応答に良い影響を与えると報告されています。
ただし、特定の食品で“免疫を高める”というよりは、
バランスの取れた総合的な栄養ケアが重要です。
📝Q2. 子どもにはどんな“免疫力アップ”をさせたらいい?
難しく考えすぎず、楽しく多様な食事・十分な睡眠・外遊び・発酵食品・家族の笑顔を大切に。
それが、子どもの免疫を育てる最高の“サプリメント”です。
📝Q3. 漢方だけで免疫力を高めることはできる?
漢方は、体のバランスを整える優れた知恵です。
しかし、それだけで“劇的に免疫が上がる”ものではありません。
現代医学・栄養・生活習慣と組み合わせて、あなたに合う形で取り入れましょう。
💬「体を変えるのは“特効薬”ではなく、日々の小さな選択の積み重ねです。」
🔗 参考・引用情報
これらの情報は、最新のエビデンスと公的機関の発信に基づいています。
情報源を明示することで、読者が自ら信頼性を確認できるよう設計しています。
本記事は、看護師としての医療知識および公的エビデンスに基づいて執筆していますが、
診断・治療を目的とするものではありません。
体調や症状に不安がある場合は、医師・薬剤師などの専門家にご相談ください。
あなたの体は、あなたにしか育てられない。
その思いやりが、最も確かな“免疫ケア”です。
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